手紙

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I・Mpon

あなたのご活躍をネットで拝見し、わがことのように嬉しく思っております。

さて、なぜに今更あなた様にこのような怪文書を送り付ける必要があるのかと申しますと、それは要するに、

自分の音楽が作りたい

それだけでございます。

Mpon君は今でも恨んでいるか?もうすっかり忘れてしまっているか、それともここまで読んでも一体この人が誰なのか、わからないでいるかもしれませんが、どうか私のことをそんなにかわいそがらずに読み進めていただきたい。

十数年前、私は一方的に姿を消しました。たしか○○だったかでライブの打ち上げかなんかをやっている途中に、僕はいなくなりました。それっきり連絡も取らず現在に至る。

その間何があったのか。

別に何もありませんでした。

あの時僕は現在の妻である妻と約束をしていました。

「これを最後に音楽をやめる」

それで僕は約束を守ろうと姿を消しました。

彼女は自分の過去をすべて清算して僕と向き合っておりましたので、僕にも僕の持ち物で彼女と関係のないものはすべて清算する必要がありました。彼女は自らに嘘のない、自分の好きな人や物に対して、常に正面から向き合おうとする人でした。といったことは後から少しずつ分かってきたことで、あの時は単純に「この人と一生一緒にいることになるだろう」という予感だけを信じ、二人だけになる決意をしたのでありました。それからはずっと二人で、ほかに必要以上の人間関係を持たず、暮らしてきました。青かったと言えば青かったのかもしれませんが、それがその時の精一杯であり、真実であったと今でも確信しております。

そういった生き方が人として寂しくむなしいものであるとする意見もあるだろうし、また現実からも遠ざかってしまうようなあらゆる危険性が潜んでいるという考えもあると思います。実際何度も何度も壊れかけたりしましたが、僕たちの場合ほかのだれかではなく、時間や季節またはそれでも仕事に行かなければならないという現実とかが、いつも修復してくれました。僕のほうからすれば何があっても妻に対する特別感が消えないのでした。

そんなわけで今は子供も二人ほどおりまして(小学3年生と1年生)、「んじゃ、そろそろ家でも建てるべか?」と○○の山林の中に土地を見つけまして、具体的にどんな家にするか、雑誌や参考書などを見ながら話しているところであります。

さて、振り返ってみればMponが血眼になって勉強し、あらゆる欲望や煩悩と闘いながら、ついにお医者様になられたことに比べ、我がこの十数年は、いわゆるとある繰り返し、サイクルによる人間性のマヒとの闘いでもあったわけですが、そのサイクルの中で発作的に表れる音楽への思いはやはり、簡単には消えないのでありました。それであの時の妻との約束を時の流れやその場の空気でうやむやにして、また僕はギターを買いました(グレッチですね)。職場でバンドを作り、そしてやはりメンバー間の気持ちの温度差は埋められるわけもなく、ドラムに辞めてもらいました。

一緒にESPの文化祭だか何だかに行った時のことを覚えているだろうか。いろいろなことを忘れていく毎日だけれども、あの日、ESPの先生と一緒にドラムをたたいていたMpon君を僕は今でも覚えております。それで何気なくネットで探してみたら見つかりました。

東北、原発、家族の愛とか絆とか、義務とか責任だとか、何でもかんでもものにしてしまうテレビとか。

多様化すればするほど平坦な世の中になっていくようです。

僕の地元の親友が5年位前、事故死しました。○○ハウスにも来てたやつです。

最近は僕のもっとも古い友人が自殺しました。そいつは弁護士になろうとしてたみたいです。

いろいろな寂しい出来事は、僕たちから少しずつ人間性を奪っていくような気がします。
季節の変わり目がよくわからなくなったのは、環境のせいだけじゃないのかもしれませんね。

長くなりましたが、

その節は一方的に消えたくせに、また一方的に連絡ください、なんて都合のいい話で本当にすまないと思いますが、

犬が寝た後とかでいいし、何でもいいし、連絡くれないか。

○○

P・S これ以上特にいうことはございません。

うん、もちろん、返事はありませんでした。


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